勝手に紹介シリーズの今回は、汐れいら(公式サイト)です。
タイトルにあるように”今更”なのだけど、知らない人もいるだろうから、今回紹介させていただきます。
実は、私が汐れいらを知ったのはつい先週のことだった。
最初は名前の読み方すら分からなかった。
しお? と思った。
”うしお”と読むと知って、ああ、なるほどそうとも読めるのかと。
もしかして牛尾なら尾張氏の本家筋に近い家柄かもと思ったりもしたけど、その手の話は名古屋神社ガイドですることにしたい。
それはともかくとして、汐れいらなのである。
まずは一曲聴いてもらってから少し話をしたいと思う。
ABEMAオリジナルの恋愛番組「彼とオオカミちゃんには騙されない」の挿入歌として採用されたことで汐れいらのことを知ったという人も多かったのではないかと思う。
これが2022年の5月なので、もう2年の前のことだ。
このときに知っていれば古参を名乗れただろうけど、2024年では完全に出遅れた。
それでも、2024年8月に1st EP『No one』リリースということで、今からでも追いかければなんとか間に合うくらいだ。
この『No one』にはこれまでの汐れいらのエッセンスが詰まっているといっていいと思う。
ここにあえて『センチメンタル・キス』を入れなかったのは、戦略というよりも汐れいらの矜持のようなものだったのかもしれない。私は『センチメンタル・キス』だけのアーティストではないんだという宣言にも思える。
でも、『センチメンタル・キス』はいい曲だなと思う。名作だ。
今後、汐れいらがこの曲を超えるのは難しいかもしれないし、これを超えることが一つの目標になるかもしれない。
本人の思惑や実力を超えて生まれてしまう名曲というのがあって、本人がどう思おうと、世間ではそこが基準となって難しいことになる。
優れたアーティストはたくさんいるけど、優れた曲を生み出し続けるアーティストはそれほど多くない。
リリック・バージョンとアコースティック・バージョンもあるので、聴き比べてみてください。
わりと最近まで路上ライブをやっていたようで、公式、非公式の動画も複数アップされている。
動画は新宿の有名な場所だ。
ここは無名から有名人まで数多くライブが行われている場所で、東京に住んでいたら通ってみたかった。
数年後にはメジャーデビューすることになる原石が必ずいる。
2002年東京都江戸川区生まれの22歳。
活動開始は2021年で、2023年にメジャーデビュー。
ネット上の情報はあまり多くないのだけど、インタビューを読むとその人となりや考えの一端を知ることができる。
汐れいら 「さよならCITY」 インタビュー――シンガー・ソングライター、19歳の素顔(encore)
汐れいらという“新しい才能”の誕生 1st EP『No one』創作秘話、物語の紡ぎ方に迫る(Real Sound)
汐れいらを初めて聴いたのがこの曲だった。
YouTubeを見回っていたとき、たまたまトップ画面にあったのがきっかけで、そこに引っ掛かっていなければ今も知らないままだった。
初めてのアーティストの場合は身構えるところがあって、たいてい最初は疑ってかかる。再生回数が数万、数十万だったとしても、自分には合わないことが多々あるし、それほどでもないだろうとあまり期待しないようにしている。
汐れいらの場合は、あ、わりと好きな曲調だなというもので、いきなりガツンと来たわけではなかった。
ゆるく引っ掛かったくらいで、そのまますれ違ってしまう可能性もあったのだけど、YouTubeは何か一回見るとそれに関連する動画をやたらすすめてくるので何度か聴くうちに、ああ、やっぱりなかなかいいかもしれないなと思って別の曲も聴こうとなったときに出会ったのが『センチメンタル・キス』だった。
これで私の汐れいらの評価は確定となった。
その間は2日だったか3日だったか、とにかく出会って気に入るまでは早かった。
その後、繰り返し『センチメンタル・キス』を聴くことになる。
デビュー曲がこちら。
後の汐れいらにつながる萌芽は認められるものの、まだまだ洗練されていないし、弾けていないというか一線を越えていない。
この時点で汐れいらの才能を正確に見抜いていた人がいたとしたら、その人はかなりの慧眼だ。
これが3年前の2021年なので、まだ日大藝術学部に通っていた頃だろうか(その後中退)。
インタビューの中で、当初は小説家志望で、後に音楽の道一本に決めたと語っているけど、言葉の扱い方に非凡なものがあって、そこが汐れいらの一つの特異な点となっている。
個人的には、にしなのような天才性は感じないけど、ユニークな才能には違いない。
経験に頼らず創作することを公言しているのは非常に稀で、そこにも汐れいらの特質が表れている。
歌い方は倍音を多用してウィスパーボイスとエッジを効かせる今時のものだ。
誰かに似ているようでもあり似ていなくもある。
2ndシングル。
自分はラブソングだけのアーティストではないという思いはデビュー当時も今も持っているのだろう。
自分の世界を広げたいとか壊したいという思いはどのアーティストも抱く感情だ。
ただ、世間がそれを許して受け入れてくれるかというとなかなかそうはいかず、そこに溝が生まれることになる。
もっと『センチメンタル・キス』みたいなのが聴きたいという受け手と、もっと違うのが歌いたいというアーティストの間では常に葛藤がある。
これがドラマや映画のテーマ曲を依頼されて作ることになると、また違った思いや葛藤が生まれることになる。
King Gnuの常田大希が自分は作品の奴隷だと発言したけど、あれはとても印象的だった。
4thシングル。
自分はそんなに上品な人間じゃないと思っているのか、どこか下品さに憧れているのか、そのギリギリの感じをタイトロープというタイトルで歌うところにセンスがある。
本来こういう曲調こそが汐れいらの真骨頂なのかもしれない。
かつてはバンドだったそうだけど、バンドが合うのか合わないのか、判断が難しい。
路上ライブのタイプとも少し違う気がするし、ライブハウスを主戦場とするアーティストでもなさそう。
汐れいらにとって一番相応しいステージってどこなんだろうと考えると、ちょっと分からない。
汐れいらの曲を聴けば聴くほど汐れいらのことが分からなくなる。
どこに汐れいらの本体があるのか見失う。
その混沌そのものが汐れいらなのだといえばそうなのだろうけど、キャッチフレーズやイメージが定まらないとそこが弱みになったりもする。
別にそんなに売れなくてもいいと思うと、二極化が進んだ今の時代では反対の極に追いやられてしまうことになる。
売れることが絶対的な正義ではないけど、やるからには売れた方がいいし、売れれば多くの人に作品を届けることができる。
8曲目にして久々にバラードに戻ってきた。
こうして並べてみるとバラードの割合は意外と少ないことに気づく。でも、これくらいでちょうどいいのだろう。
こういう曲調の方が世間受けは良さそうだけど、それでは満足しないのが汐れいらというアーティストと見た。
急に変わった曲を持ってきた。
でもこの曲で朝ドラの主題歌が見えた。
朝ドラ経由で2、3年後には紅白に出ているかもしれない。
こうして年代順に聴いてくると、着実に成長進歩して成熟していることが感じられる。
これはとても優れた曲だなと思う。
汐れいらがデビューから3年でここまだ来たかという感慨と、J-POPの集大成的というか一つの到達点のような作品のようにも思う。
天才ではなく、秀才とも違う、もちろん凡才でもない、汐れいらを表現する言葉はまだ生まれていないのかもしれない。
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